水産基本法と海洋基本法
「人間中心主義」か「生態系中心主義」かの視点
[季刊里海]通信のブログのほうで、新年冒頭メモで書いた、「今、なぜ海洋基本法なのか?」へのアクセスすが1日100件ぐらいに増えています。けっこう関心あるんだなあと言う印象ですが、ぼくがPCにファイルしてある、ネット公開資料のストックの中に、おもしろい国会審議上で繰り広げられた国会議員の意見交換があるので、引用しておきましょう。
この記述は、第151回国会の農林水産委員会議事録「第15号―2001年・平成13年5月29日」で公開されているものですが、海の保全を考える時に、「人間中心主義」か「生物多様性を柱にした生態系中心主義」かの調整というテーマをも含めて発言しているなど、現在の一般的な人々の海を考えようとする時の視点を表現していておもしろいと思ったので載せてみました。これは、国益論ではない、もう一つの環境論からアプローチした海洋基本法を志向する考え方ともいえるでしょう。
○佐藤(謙)委員 農業には、開発から身を守る仕組みというのが、今いろいろと社会的にあるんですが、どうも漁業と森林・林業は、まさに開発にさらされてしまう。だからこそ、今、森は海の恋人、川はその仲人と言われた、気仙沼の畠山さんが始めたああした運動が全国的に展開をされる。
そして、私も、水俣に行ったときに、水俣病で本当に人生を棒に振ってしまった、結婚もできずに、家族にも死なれ、たった一人で、今、小学生を相手に一生懸命水俣病のことを話をし、そして毎朝シラスの漁に出ている女性の方にお目にかかった。本当に、苦しみや怨念を超えて、仏様のようなすばらしい顔をされておられたんですが、その彼女も一言、不知火を昔のようなすばらしい海に戻したい、そのために、佐藤さん、一緒に山を大切にしましょう、山から始めたい、山にある、森林にあるフルボ酸鉄というものが結局植物プランクトンを育て、そして食物連鎖ですばらしい豊穣の海をつくっていくんだ、そうしたお話を聞けば聞くほど、今我々がどういう仕組みをつくっていくかというのは非常に大事なときなんだろうと思うんです。
私は、一つ、化学物質の問題で、いろいろと法律をつくってきたりしましたけれども、その中で、ある市民運動の方がこういうことを言われたときに頭を殴られたような思いをしたんです。それは魚とPCBの問題で、我々人間はダイオキシンの九割が口から入る、そのうちの七割が日本の場合は魚からと言われて、魚の、食の安全性というのは非常に大切だということを我々は肝に銘じたわけです。魚の汚染というとすぐ、佐藤さん、あなたは、我々人間が食べて、そして体にどういう不都合があるか、健康を害するかということばかりを考える、それは本当の意味では人間中心主義だ、魚が侵されている、そういう現実に目を当てなければ、この問題は解決しないんだよと。魚に蓄積された化学物質を人間がどれだけとるかではなくて、魚がどれだけ蓄積してしまっているかというところから視点を当てなければいけないと。
まさに、この水産基本法の一連の議論でどうもかみ合わないその議論の根本は、人間中心主義かあるいは生物多様性を柱とした生態系中心主義かの、そのミスマッチがそのままあらわれてきたような気がしてならないんです。保全は一切自然に手をつけない、そういう誤解からスタートする。調和というのはいい状態にするんだということで、調和の方がはるかに重い大きな概念だと言われてしまうと、そこで話はストップしてしまう。
あくまでも、水産というのはやはり人間が主語、我々の事業が主語なんです。そうじゃなくて、我々も自然の中で生かされているという、先ほど、謙虚な気持ちを大臣は持っておられるわけですから、そうした大臣の謙虚な気持ちをそのまま法律や日本の社会の仕組みに、今の大臣だったらそれができる立場におありなんですから、やっていただきたいと思うんです。
例えば、栽培養殖漁業の危機が言われています。一九九六年に、熊本県の天草でアコヤガイの被害が起きました。そうした被害を中心に、今養殖漁業の危機が言われています。ホルマリン漬けのトラフグですとかあるいはヒラメ、今、そうしたものが給餌養殖としてどんどん広がりを見せているわけですけれども、そうした安易な化学物質を使う漁業というものを、とる漁業からつくり育てる漁業という名のもとに野放しにしてしまって、都市生活者がそのままわかったと言ってくれる時代が来るのかというと、私は来ないというふうに考えています。
そこで、この養殖漁業については、一九九九年、おととし、持続的養殖生産確保法というのができたわけですけれども、この持続的養殖生産確保法、この目的を見て僕は唖然としたんです。実は、私、このとき農水委員会に所属していなかったので。この目的の中で、「特定の養殖水産動植物の伝染性疾病のまん延の防止のための措置を講ずることにより、持続的な養殖生産の確保を図り、もって養殖業の発展と水産物の供給の安定に資することを目的とする。」つまり、事業者、供給者からの視点だけででき上がっている法律。
これは、この法律の性格上やむを得ないかもしれないわけですけれども、消費者の食の安全、さらには化学物質に対して、水産業という一つの業の中でどういうふうにこれから扱っていくのかということは、私は、非常に大きなテーマなんだろう、それこそが、人間中心主義なのか、生物多様性を柱にした生態系中心主義なのかを大きく左右する、まさに岐路に立っているときだろうと思います。
こうした問題についてどういうふうにお考えでしょうか。
○武部国務大臣 私は、人間も自然界の一員だ、こう思っておりまして、今先生の御指摘の点については、相対立する関係ではない、かように思っております。
いずれにいたしましても、さまざまな人間活動による自然環境への負荷が非常に大きくなっているということは非常に大きな問題でありまして、先ほども申し上げましたように、自然の恵みに感謝するとともに、自然を恐れる謙虚な気持ちを持つことが、生産者も、食品加工業者も、また消費者も、これを原点として考えていかなければならない、かように思っております。
有明の問題についても、私が先般、お互いまず自分の足元を見詰め直してくださいということを申し上げましたのも、私は、酸処理剤の使用の問題のビデオなども見ましたけれども、結果的には自分で自分の首を絞めるようなことにならないように、そういう意味では、何事も法で規制するとかそういうことではなくして、その原点を考えればきちっとした対応ができるのではないか、このように考えております。行政の面でも、そういう考えを前提に今後の対応を、しっかり適切なやり方をやっていかなきゃいけない、このように思っております。
私は、そういう意味では、対立する関係ではないけれども、先生の御指摘というのは非常に重要な御指摘だ、かように受けとめております。
○佐藤(謙)委員 どうもありがとうございます。
最後の質問になると思うんですけれども、今、感謝と謙虚という言葉を出していただきました。それに対して私は感謝を申し上げたいと思うんですが、海洋資源という言葉自身に、人間にとってのみ有用であるというそうした傲慢さ、そうした考え方から解放されなければいけないんじゃないかということを考えると、水産基本法を初めとした関係諸法はそれはそれとして、それをもう一つ大きく包括する、先日の参考人質疑で、東京水産大学の多屋先生でしたかお話がありました、海洋基本法がもう一つ大きい問題としてあるのではないかと。私は、海洋保全法というようなイメージでいいのではないかなというふうに思っているわけです。
要は、海全体の生産力をどうふやすか。その中で、漁業者はどういう役割を演じ、国民はどういう役割を演じ、そしてその中でどれだけの分け前を我々がもらい、次の世代にバトンタッチをしていくのか。そうしたことを大所高所から議論をする時代というふうに私は申し上げましたけれども、まさに、海洋における生物多様性というのは、実は盛んに条約に加盟はしたのですけれども、今、そうした目的を施行する国内法というのがないのですね。今すがっている法律は何かというと、まさに水産庁が所管をしている漁場保全だとか、水産資源の保護というところしかない。やはりこの法律のさらに包括的に大きな海洋保全という問題を考えると、海洋保全法あるいは海洋基本法をつくるべきだと私は思います。
そして大臣は、これは所管ではないのかもしれませんけれども、今までのこうした議論の中から、最後に前向きな御発言をいただければと期待を申し上げます。
○武部国務大臣 ここ数年ですよね。環境修復型の公共事業、そういう問題が提起されたり、人と自然との共生ということが大きなテーマになってきたというのも、これが具体的に国民レベルで関心が高まってきたというのは、私の認識ではここ数年ではないか、かように思います。これは、急速に高まっていくだろうと思います。
そういう意味では、こういう議論というものをどんどん盛んにしていくというようなことが大前提であって、現時点においては、前向きな答弁がなかなかできないということでおしかりを受けるかもしれませんけれども、議論が成熟しているとは思わない。議論が緒についたと。これはやはりもっと、これは農林水産省の所管ではないかもしれませんけれども、それは私どもの所管ではありませんということではなくして、私どもの方からむしろ積極的に問題提起を掲げて、そして国民的なレベルで、今先生の御指摘のような議論を盛んに高めていく必要があるのではないか、そういうことを前提に、いずれ将来立法ということも俎上に上がってくるのかな、そういうような印象を私は持っている次第でございます。
○佐藤(謙)委員 武部大臣の誠実なお人柄に期待をして、質問を終わらせていただきます。
MANA(なかじまみつる)
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コメント
宮城県 牡蠣の森を慕う会(代表 畠山重篤)と申します。平素、森は海の恋人運動にご賛同いただきありがとうございます。
このたび、水山養殖場WebStoreより畠山重篤エッセイブログを掲載開始いたしました。機会があれば、ご覧いただければ幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。
尚、重複のご案内の場合は平にご容赦下さい。
投稿: 牡蠣の森を慕う会 | 2010年9月23日 (木) 01時54分
牡蠣の森を慕う会(代表 畠山重篤)さま
畠山さんのエッセイブログ開始のお知らせありがとうございます。
私のの友人たちにも知らせ、毎回の、示唆に飛んだ楽しいエッセイを楽しみにしてまいります。
MANA:なかじまみつる
投稿: MANA:なかじまみつる | 2010年9月28日 (火) 17時20分