◎神奈川県水産総合研究所内水面試験場 技師 勝呂尚之さんより1995年10月に捕獲されたアユカケについての取材(1996年1月26日 PM11時)
◇研究所所在地 JR八王子経由横浜線橋本駅より、タクシー(1200円)。相模原市大島3657
勝呂 希少魚の研究に力をいれはじめています。以前からも国の指定の天然記念物指定の
ミヤコタナゴの増殖研究をやってきました。これからは、全国的な希少魚という概念ではなく、神奈川県で絶滅に瀕している魚たちについてを考えていこう。たとえば栃木にいようが、茨城にたくさんいようが、神奈川県で希少魚になっているというのであれば保護していこうという方針で研究に取り組んでいます。
よく最近聞かれるとは思いますが、「系統」という言葉があります。例えば、相模川にすんでいるカジカと、隣の県のカジカと微妙な違いがあるという場合は、その地域のものとしてそれぞれに保護していくという考え方です。この考え方は、だいぶ浸透してきました。これまで、日本は、この考え方について遅れていた。
例えば、ノルウエーの場合、サケをたくさん増殖してます。彼らは、水系別にそれぞれ、交わらないように増殖している。母川にもどる鮭ですから、どの川の鮭かがわかる。それが200も300も川ごとにしている。
これが、希少魚となると、問題が大きい。希少ぎょとして数が減って、地域に部分的に取り残されてきた。県内のミヤコタナゴと、栃木県のミヤコタナゴというばあい、栃木にたくさんいるから、神奈川県では死んでもいいということにはならない。ここが重要な大前提となります。
---漁師さんや、地元の人にとって、地域的な差をそれぞれ知っているが、はたして別の魚なのかとか、同じ系としてくくれるのか。
勝呂 ヤマメなんかでも、本来は、神奈川の丹沢産のヤマメはいたはずです。今となっては、地のヤマメがどういうやつかというのは、非常に分かりやすくなっている。釣りのかたたちが、ここは俺の沢だということで、どんどん放流している。その放流の魚の起源は、入手しやすいところからとってきますから、静岡県とか、東北からもってくるとかということをしちゃう。
神奈川県というのは、ヤマメとアマゴの境界線にある。ヤマメとアマゴは、亜種レベルの違いで、種の違いではない。ヤマメとアマゴの一つの説としては、ヤマメからアマゴのあいだに徐々に変わっていくという研究がある。しかし、今はそれが検証できない。人間が、別の系のものを離しちゃったわけですからね。
ヤマメの研究もやっている中で、いろいろな沢のヤマメの形をみます。これは放流だな、また交じりますから、研究するものにとっては、広い意味での系統群ということでは、最近、「撹拌」「撹乱」ということばをよく使います。これが起きているのは非常に大きな問題であると思います。
---アユの稚魚の放流とか、琵琶湖さんの稚魚が各地に散らばっていくだけでなく、そこに含まれるほかの魚たちも一緒に放流されて、本来いないはずの場所にその魚がいるなんてこともおきている。
勝呂 相模川は、琵琶湖系のアユも交じっているわけですが、琵琶湖水系の魚たちも頻繁にみられるようになっています。ゼゼラとか、カマツカによく似た魚ですね。ヒガイとか、昔天皇陛下が好きでしたね。魚編に皇と書く、「魚皇」ですね。そういう魚類が増えています。あとは、外来種ですね。タイリクバラタナゴとか。タナゴ類は国内では絶滅に近い状態ですが、タイリクバラタナゴだけは増えている。
いまペットショップなどで、タナゴの名前でこの魚が売られています。しかも10匹で1500円とかそういう安い値段ですから人気があるのです。この魚が飽きると、子供の替わりに親が、川に放してきてあげるよといって、捨てていく。それが川に定着していった。困ったものです。
---希少種ということでいえば、アユカケはほとんど絶滅に近い魚ということがいえる訳です。
勝呂 神奈川県ではほとんどいない。10年ぶりぐらいの捕獲記録でした。調査でいって採れないのと、実際にいないのかというとそうではない。釣り人の情報を常にあつめています。名刺を配って歩いているので、連絡をもらうと、この前採れたとかいうことはある。しかし、この情報は鵜呑みにはできない。何十件と情報をもらって確認にいきますと、カジカとか、カマツカとか、ハゼ科のカワアナゴの種類だったりします。
ハゼの仲間は、環境指標種としてはちょうどいい種類なのではないでしょうか。ハゼの仲間は広い。ハゼは我々のなかでも、全部分類できる人というのは日本に一人とか二人しかいない。それぐらい多岐にわたっている。沖縄にもハゼがおおいんです。ハゼの研究というのはこれからの分野。新種の記載がどんどんきていますから。そのなかで、環境に強いやつ、極端に弱いやつ、いろいろなのがいますから。一般にいわれているハゼというと、どちらかというと環境の変化に強い、チチブの仲間とか、ヨシノボリとかというと、人々とのかかわりとしては大きいのでしょうね。
---ダボハゼですね。
勝呂 ダボハゼでいっしょくたにしているものですね。そのなかにも随分種類がたくさんいる。相模川でも10種類ぐらいいますから。
---10月に捕獲されたアユカケについてお話を聞かせてください。
勝呂 アユカケの生息調査を今年度からやっています。ところが1匹も採れていない。このアユカケは、たまたま友釣りに引っ掛かったものを飼育しているわけです。アユを食べようとして引っ掛かってしまうのか、ちょっとその辺は分からない。確かに釣れる。たまたま釣れた1匹がこれです。いままでは空振りが多かったんですが、今回は本物のアユカケでした。
酒匂川の小田原大橋がる。河口に近いところ。アユカケというのは、アユカケに限らず、カジカの仲間は、ハゼ類と違って、胸鰭が吸盤になっていません。これはどういうことかといいますと、遡上能力が弱いのです。急流のところを、ハゼ科の仲間の魚たちは吸盤を使って、90度の岩をも登っていく種類もいます。ボウズハゼなんか、びっくりしますよ。そういうことができないのが、アユカケです。神奈川県では棲息域が非常に限られている。というのは、どこの県でもそうですが、大きな堰を作ってしまっている。魚道がありますよね。階段型の魚道は、当然水産重要魚種のアユとか、そういったものを前提において作っていない。だから、登れないんですね。これは昔聞いたことですが、堰のしたに(アユカケが)みんなたまっていたということです。遡上してくる稚魚ですね。ですから、アユカケの数が減ったというのは、間違いなく人為的な(環境の変化の)影響ですよね。どうみても。
水質の悪化も当然あるでしょうが、堰をつくったことですね。海と川をいったりきたりするカジカがいますね。普通に陸封されたカジカはいまでも結構採れるんですが、(両側回遊性)のカジカは恐らく絶滅してしまったのではないでしょうか。もう記録は全然ないんです。15年~20年ぐらいない。アユカケよりない。だから、間違いなく人間がつくった原因によっていなくなった。
---問題は、カジカがいなくなっても、報道もされないし、だれもたいして気にしていないというような、そんな魚なんですね。生物学のほうの専門の方はもちろん気が付いているのだろうと思いますが。アユや、ヤマメなどの有用魚種のような認識はほとんどない。いわば「雑魚」ザコとしての認識です。その意味で、神奈川水試が、希少魚種の研究に取り組みはじめたということは、すばらしいことだと思いますね。
勝呂 その意味では、うちの試験場は、進んでいるとおもいます。ほかは、水産、内水面漁業、たとえばウナギの養殖とか、ニジマスとかですね。うちは、そういう漁業があまりない。東京近郊ですから、内水面漁業もやらなくなって、サラリーマンのほうが楽だから、なくなった。だから、うちの試験場の存在意義はなにかといわれたときに、希少魚種のような、そういう方向の研究だといえましょう。予算化されたこともあって、本格的にはじめたところなんです。
基本的には、希少魚種の調査、種苗生産、最終的には放流適地を回復するということです。ミヤコタナゴについてみますと、生息所が1カ所もない、消えてしまった。だから新たな生息地を作るための試験を今年からはじめました。
アユカケも計画には上がっているのですが、いまのところ(生息)調査しかできていない。というのは、採れない。
---福井県のアラレガコ。
勝呂 種苗ができて、中間育成の現場にいってきました。どうしても共食いをしてしまうのだそうです。高密度ではだめみたいですね。その意味で養殖向きではないかもしれません。高知もやっていますよ。高知と、福井と、石川県だと思います。日本海中心の分布ですが、最近の分布域が神奈川県までになっています。従来ですと、青森の上のほうまでいたということですが、神奈川までということでしょう。去年、アユカケが採れたときに、その前の年に、茨城の那珂川で採れてました。栃木でも1匹採れています。
ここ数年あったかいのが関係しているのか、発見される回数が増えたということはいえます。茨城でも神奈川までしか分布していないのにみつかった。千葉では過去にも現在までに見つかっていない。
静岡はまだ結構いますね。そういった河川がまだ残っているみたいです。カワズ川とか、うちに出入りしている日大の学生がみにいって、まだ間違いなくいます。
あと、両側回遊性のカジカもそうですが、アユカケも自分の生まれた川に戻ってくるのかどうかということもまだ分かっていない。
カジカとアユカケは、種苗生産もしていますが、本当の専門家は、生態では北海道におられるかたとか数が少ない。
---標準和名はカマキリというのですね。
勝呂 その北海道の先生は、カマキリというのが嫌いらしく、アユカケとして書いている。アユカケはもとは、地方名だと思うのですが、カマキリとはじめに記載されたことから、標準和名としてはカマキリ。ところが、カマキリというと、昆虫のカマキリと混同しやすいもんですからね。意味はちがうのですが。このカマがきれるということから。ここをカマといいますね。このカマのところにトゲがある。この刺できれるから、カマキリというのが魚の名前です。
わたしも、新聞発表などではアユカケをつかっていましたら、博物館の方から、標準和名ではカマキリだといわれました。しってて使ったのですが。
…以下略
インタビュー:MANA・なかじまみつる(C)
話してくれた人:勝呂尚之さん(C)
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